昼休みに校庭で追いかけっこをして走り回る小林加奈子さんと子供たち。ここで毎日のように見られた光景もこの日で最後になる。日本へ戻る前の挨拶のため、 ニュージーランド滞在中ボランティアをしていた小学校を訪れた彼女をつかまえてしがみつき、「行っちゃダメ」と決して離そうとはしない子供たちに別れを告げる、加奈子 さんの表情もまた寂しげだった。
Kanako Kobayashi
小林 加奈子
小学校教員 / primary school teacher
1980年生まれ。茨城県ひたちなか市出身。大学卒業後の2004年5月に英語を習得するためニュージーランドへ渡航。ニュージーランド滞在中は小学校でのボランティアの他に、エクスチェンジで語学学校のカウンセラーに従事するなど、さまざまなことにチャレンジする。今年4月初めに日本へ帰国、地元の中学校で社会科の非常勤講師となる。
教職をめざして
小学6年のときの担任は特定の児童にひいきをする先生で、あまり好きではありませんでした。それが将来は教職の仕事に就きたいと思うようになった直接のキッカケです。私の理想の教師がいないのなら、自分自身が理想の教師になろうと思ったのです。
大学は国立の教育大を志望しましたが、実力が伴わず、第二志望で合格した私立大学の経営学部に入学、そこでは中学の社会科、高校の公民と商業、社会教育主事、司書教諭と、専攻できる教職過程はすべて専攻しました。
大学卒業後、周りの人たちは当り前のように一般企業へと就職していきましたが、私はどうしてもすぐに就職する気にはなれませんでした。一般企業で働いてい る兄や先輩たちの冴えない表情を見て、彼らのように毎日同じ生活はしたくないとも思いました。また、将来教員になるにしても、社会経験が無く、学校しか知 らないまま教員になることに不安があったのです。
そこで、国際的視野を養うことと語学習得のため、ワーキングホリデー制度を利用してニュージーランドへ渡ることを決めました。
ニュージーランドの小学校でボランティアをすることになった
ニュージーランドはもともと移民でできた国なので差別も少なく、みんなのんびりしていて、とても親切に感じました。誰も自分を否定しない、自分が自分でいていい、そう思わせてくれるニュージーランドが大好きになりました。
ニュージーランド到着後は語学学校で英語の勉強をしていましたが、そこで知り合った友人たちのボランティア体験を耳にするうち、私も何かしてみたいと思うようになりま した。そして、近所に住む人の紹介で、Grey Lynn Primary Schoolのボランティアをすることになりました。
最初は図書室の本の整理や、先生方のお茶の準備などといった雑用のみをこなしていましたが、直接子供たちと関われるような仕事もしたいと希望したところ、 先生のアシスタントとして学年0~2年(5~7才)の子供たちの世話をさせてもらえるようになりました。ライティングの授業のときにスペルを教えたり、課 題が終了した子供から取れる自由時間に折り紙を教えたり、一緒に絵を描いたりしていました。浴衣を着て各クラスを訪問したこともありました。また、小学校 内に併設されている語学学校では、英語が母国語でない子供に英語を教えたりもしました。
私自身、英語のレベルは簡単な日常会話が何とかこなせる 程度で、特に子供は私の語学力に合せてゆっくり話してくれたりはしないので、子供たちとの意思疎通には本当に苦労しました。女の子の興味を引くためには可 愛らしい服装をしたり、つけ爪をつけたり、男の子なら一緒に追いかけっこをしたりと、子供と仲良くなれるキッカケを工夫したりもしましたが、笑顔と度胸だ けでその場を乗り切っていたように思います。それでも子供たちは本当によく私を慕ってくれ、毎日楽しく、充実した生活を送ることができました。
ニュージーランドの教育を通して、日本の教育問題について掘り下げて考える機会を持った
ニュージーランドの小学校では子供の個性を第一に考えた教育方針を採っています。子供のすることに対して、決して「NO」とは言わず、子供が自分で考えて答えを見つけられ るように促します。また、どんな小さなことでも、子供の長所を見つけて徹底して褒めるのは、ぜひ見習いたいところです。
日本の子供は常に上から押しつけられているため大人の顔色を覗うのが得意で、子供らしさに欠けますが、ニュージーランドの子供たちは本当に無邪気です。また、日本とは異なり、5歳の誕生日を迎えた子供がその都度入学するニュージーランドでは、年長者が新入生の世話をする仕組ができ上がっていて、実際ニュージーランドの子供たちは本当によくお互いの世話をします。
教え方にも日本では模範があり、教職員は各学校ごとに定められた指導要領に基づいて授業を進めることが求められますが、テキストを使用しないニュージーランドでは、どのように授業を進めるかはすべて各教員の采配に委ねられています。教職員の間に上下関係もなく、教職員同士が自由に意見を言い合える環境も、子供たちにとってプラスになっているように思います。
テキストも宿題もないニュージーランドの小学校では、一見子供に好きなことをさせているように見えますが、彼らの自主性を尊重し、個性を伸ばすのに役立っているのです。
しかし、問題がないわけではなく、ニュージーランドの教育システムでは、自主的に勉強する子供とそうでない子供との間の学力の差に、かなりの開きが出てきます。個性重視の教育方針には大賛成ですが、小学校の頃の基礎学力を身に付けるべき年齢では、日本のような「押し付け」の教育もある程度必要なようにも思います。
日本の教育システムのあるべき姿を、ニュージーランドの教育現場に携わった経験も踏まえて考察していきたい
現在日本の教育システムは大きな転換期を迎えています。2002年からはゆとり教育と称して完全週5日制が定着し、授業内容は3割削減され、新たに「総合学習」の時間が時間割に組込まれました。「総合学習」の内容は各学校に任せられていますが、具体的には農家や地元のレストランで実際に仕事を体験するなどの、地域住民のサポートを受けた、実生活に密着したカリキュラムになっています。また、従来のような右に習え的な教育ではなく、個人個人にあった教育が見直されつつあります。
私自身では日本の教育は時代に合っていないのではないかと、常日頃から思っていました。このように学校教育という局部だけを急激に変えたところで、子供たちも教職員たちも戸惑うだけで、あまり意味がないような気もしています。
実際、今年発表された来年度から実施される指導カリキュラムでは、「授業内容3割削減」が廃止され、年々減っていた授業内容が16年前に戻されることになりました。これは、学力低下が顕著となったからだと思います。また、週休2日になっても、両親が仕事で忙しいためどこへも連れていってもらえず、結局子供たちだけで過ごすケースが多いのが実状で、社会全体のシステムの変革が求められていると思います。うまく機能させていくためには、今後のさまざまな試みの中で、子供たちにいったいどこまでの知識が必要なのか、しっかり見極めていく必要があると思います。
今年4月からは非常勤講師として地元の市立中学で社会科を教えます。教職員同士の確執や上下関係など不安もいっぱいありますが、ニュージーランドの教育現場から学んだ、押しつけるのではなく促す、子供の個性を大切にできる教育を実行していくつもりです。その中で、日本の教育システムがどうあるべきか、自分なりに考察していきたいと思っています。
そして、契約期間の1年間で、教職の仕事が本当に自分に向いているのか、これから自分がどうしたいかについてじっくり考えようと思います。
具体的には、日本で教員を続けるのか、英語の発音がきれいなイギリスへ留学して語学力アップを図るのか、または大好きなニュージーランドへ戻ってくるのかなど、山ほどある選択肢の中から、本当に自分の望んでいる道を見つけたいと思います。
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