ダンス:岡部 多鶴 さん
HAERE舞の踊りを通して日本の文化を紹介。
鳴子を手にした一団が、踊りに合わせて両手を大きく左右に振りながら足踏みをする。岡部多鶴さんは、ニュージーランドで活動しているダンスチーム「Haere舞」に参加していた。
Tazu Okabe
岡部 多鶴(おかべ たず)
1973年生まれ。福岡出身。筑紫女子学園短期大学卒業。04年6月ニュージーランドに来る。英語学校在学時からYOSAKOIソーランを踊る「Haere舞」というダンスチームに参加。日本でお茶を15年習っていたことからその道にも精通している。
私は学生の頃から、英語が嫌いでした。苦手科目でした。大学卒業後に交換留学でアメリカに数ヶ月行く機会がありましたが、その際も仮病を使って大学のサマースクールをさぼるくらいでした。ですが、就職してからは、毎年夏休みや年末年始の度に同僚と旅行計画を立て、一緒にいろいろな国を旅しました。韓国、フランス、香港、マレーシアなどなど。旅行のために仕事をしていたといっても過言ではありませんでした。
ある国へ旅行に行ってからです。海外のどこへいっても日本人がいるということを感じるようになったのです。そして、どこの国でも観光ガイドやお土産屋、ホテルなど様々な場所で日本人が働いているのを目にしました。誰から見ても頼りなさそうに見える年齢の人でさえも一生懸命に仕事をこなしていました。海外にいるそうした人達を見て、日本で毎日決まった時間に出勤して、何時までにこれをしなければいけないといったスケジュールに沿って働いている自分に疑問を持ってしまったのです。働き初めてから仕事を覚え、後輩もでき、毎日同じサイクルで生活していた今の自分を見つめ直していました。また、このまま同じ会社で働いていていいのだろうか?という思いがわいてきたのです。
渡航準備を始める
03年10月ワーキングホリデー協会を訪ねようと思い、そのオフィスがあるビルに向かいました。候補地はオーストラリアかニュージーランド。どちらの国にしようか決めかねていたのです。
協会の入り口の直前で同じビルの中に入っている留学エージェントの人に声をかけられました。そして、とりあえず、話だけでも聞いてみようということになり、オフィスに行きました。そこで聞いた話のほとんどはニュージーランドの話。担当者の方が好きだったのかどうかは定かではありませんが、とても強くニュージーランドを勧めてくれたのです。また、後日ニュージーランドで住んでいる人が一時帰国した際にも会わせてくれるなど多くの情報を得る機会を与えてくれたこともあって、英語学校やホームステイなどの相談にものってもらいました。
04年6月にニュージーランドに来る
空港に到着すると迎えが来ているはずだったのですが、誰もいませんでした。ひとりぼっちのまま、到着ロビーで過ごしました。最初はどうなることかと思いましたが1時間後にようやく迎えが来て、ホームステイ先に着き、次の日から英語学校に通いました。
毎日月曜から金曜まで朝9時半から英語の授業は始まります。英語は嫌いですが、多くの人に出会うために割り切って通いました。そこでは、日本で暮らしていれば会うことのない人達に出会え、考え方の違いなど、多くのことを発見できました。そして、学校に通ってから数週間経った頃、学校スタッフからあるイベントのスタッフ募集について聞かされました。そのイベントというのは日本の文化を紹介するイベントでした。日本で私は茶道を15年習っていましたし、何かのためにと、道具も持ってきていました。そこで機会があれば、そういった事に関わってみようと思っていたのです。早速、自分がワーキングホリデーで滞在していて、茶道を日本で習っていてイベントのお手伝いをさせて欲しいというメールを担当者に出したのです。すると、返信メールが帰ってきて数日後に会場下見をするのでそこで会わないかという内容だったのです。数日後、会場に足を運び担当者に会いました。そして、思いもしなかったのですが、踊りもあるんだけど参加してみないかと誘われたのです。
次の土曜日から練習に参加することになった
踊りというのは、YOSAKOIソーラン。高知県のよさこい祭りと北海道のソーラン節がミックスされて生まれた新しいものです。
YOSAKOIソーランは、91年8月、南国高知のよさこい祭りを目にした1人の学生からはじまったそうです。高知の街中に響き渡るよさこい節と鳴子のリズム。同年代の若者がイキイキと踊っている姿にその学生は鳥肌が立つ思いをしました。そして、「こんな祭りが自分の住む北海道にあったらいいのに」と、行動を起こしたのだそうです。その夢の実現の為に100名以上の学生が集まり、92年6月、10チーム1000人の参加者、20万人の観客に支えられて第1回YOSAKOIソーラン祭りが開催されたという経緯があるのです。自由で独創的な踊りが繰り広げられるこの祭りは、北海道札幌の初夏を彩る風物詩として定着していったそうです。
私が参加したのは、「Haere舞」というダンスチームです。02年から誰でも自由に参加でき、みんなで踊りを楽しもうというのがコンセプトのもと、人種や年齢層も様々で学生から社会人までいろいろな人が集まって活動しているチームです。今年は、本場北海道のYOSAKOIソーラン祭りへの参加も果たしました。
Haere舞のチーム名はマオリの言葉でwelcomeを意味する「ハエレマイ」に「舞」の字を当てて名付けられました。
練習は毎回みんなでストレッチからはじまります。踊りは力強いダイナミックな動きをすることから入念に体をほぐしていきます。基本ルールは、鳴子というカスタネットに似た音を出す用具を使うこと。「ソーラン」という言葉を音楽の中で使うこと。制限時間は4分30秒などです。また、個人の踊りではなく、団体ですからメンバーみんなの動きを合わせることが非常に重要になっていきます。そこでおのおのが確実に振りを覚える必要があります。みんなで踊っていて一人がミスをするとそれは大変目立ってしまうからです。
まずは音楽なしでワン、ツー、スリーなどと掛け声に合わせながら、振りを確認して進めていきます。一通り終わると音楽を流し、それに合わせて練習していくのです。メンバーみんなの呼吸が合ってくると、手をもう少しピンと伸ばしてとか、列をもう少しきれいに揃えようとかの細かいところを直していきます。
日本文化をNZに紹介したいという思いが沸いてきた
お茶を日本で習っていたときは、着物やお茶という文化そのものを特別に感じたことなどありませんでした。ですが、日本を紹介するイベントに参加したときにすごいと喜んでくれる来場者の姿を見て、あらためて日本の文化について考えるようになりました。そして、日本の伝統や文化をこの国の人達に誇りを持って伝えられたらすばらしいなあと思うようになりました。
YOSAKOIソーランでは、今後オークランド市や他のボランティア機関、学校との繋がりがあるのでお祭りやイベントへの出演予定が多くあります。以前には日本のお祭り「ジャパン・デイ」や毎年11月末に行われるクリスマス・シーズンの名物イベント「ファーマーズ・クリスマス・パレード」等にも参加した実績があります。そういったイベントに出演するとそれを見ていた人が今度イベントがあるのだけれどと、出演依頼をその場でもらうことさえあります。
踊りの練習は毎週土曜日10時から行っていますが私は今、ロトルアマラソンに出場するための練習もしています。 そのことも踊りを通して知った情報から参加してみようと思ったのです。この国に来てからわずかな時間しか過ごしていませんが今後もYOSAKOIソーラン以外にも日本文化をNZに紹介するために機会があれば積極的に参加していこうと思っています。