ハンティング・ガイド・コーディネーター:結城 将輝 さん
ハンティングはスポーツです。
残酷そして危険というイメージが付きまとうハンティングを一般的なスポーツとして紹介しているハンティング・ガイド・コーディネーターの結城将輝さん。世界各国からハンターがやってくるほど、人気のこの国の魅力をもっと日本人にも知ってもらいたいという。
Masaki Yuuki
結城 将輝(ゆうき まさき)
北海道出身。奥さんのワーキングホリデーに同行しNZに来たことから、仕事を得て、この国を行き来するようになる。その後、2000年ワークビザでクライストチャーチに家族そろって移住。アクティビティ紹介のひとつとしてハンティングに関わることになり、2003年9月独立し、留学(高校留学)とアクティビティ(乗馬、ハンティング、フィッシング)の紹介、個人旅行の手配などを行うAloft Planningを設立。将来、ハンティングやフィッシングを行ない、自ら捕らえた獲物を肴にワインを楽しむ日々を送るのが夢。
Aloft Planning / P.O.Box 31-066 Ilam Christchurch New Zealand
NZとの出会い
私は90年に妻のワーキングホリデーに同行しNZに来ました。それまで旅行で海外に行ったことはありましたが長期で滞在するのははじめてでした。日本で勤めていた会社が多忙だったこともあり、リフレッシュすることを目的として英語学校に行ったり、旅行に行ったりして、のんびりとした時間を過ごしていました。その頃は帰国すれば、また仕事について、忙しい生活に戻るものだと思っていました。
帰国直前のことです。知人を通して開校したばかりの語学学校を紹介されました。その学校は日本の連絡事務所を任せる人を探していました。語学学校とトントン拍子に話が決まり、帰国後留学業をはじめることになりました。当初は語学留学の紹介だけを行っていましたが、次第に高校生のお世話もするようになっていました。
私は学校を紹介する際、単に現地の情報を鵜呑みにするのではなく、実際現地に出向き学校を見学するようにしていたこともあり、年に最低1回、多いときには3、4回NZを訪れていました。多くの学校を見学していくうちに、私は徐々に日本の教育に疑問を感じるようになったのです。当時私には小学校低学年の子供がいましたが、私は次第に自分の子供にNZの教育を受けさせたいと考えるようになりました。このようなことでこの国に住みたいという思いは日増しに強くなり、そして移住のチャンスは突然やって来ました。
高校生の現地カウンセラーをお願いしていた会社が新たにスタッフを募集している、という情報が入ったのです。この会社では過去にも現地採用で何人かスタッフを雇っていたのですが、誰も皆長続きせず社長から私に「結城さんの知っている人で誰か適任者はいませんか?」と連絡があったのです。私は即座に「私が行きましょうか?」と答え、話が決まっていきました。幸い日本での私の業務は友人から紹介された留学業者が引き受けて頂けることになり、無事この国に来ることになったのです。
この国のハンティング
NZに来てからしばらくして、渡航のきっかけとなった会社から乗馬クラブやフィッシングなどのアクティビティ紹介を行う会社に移りました。そして、業務を拡張していくうちにハンティングの情報を収集することになったのです。
2001年の前半はハンティングガイドの調査を行い、2001年後半から日本の雑誌などにNZのハンティングを紹介するようになりました。
NZは、いたるところでトロフィーと呼ばれるいろいろな獲物に出会うことができることからハンティングを行うには理想的な国と言われています。 例えば、湿地帯に住む、プケコと呼ばれる青っぽいきれいな鳥やオーストラリアでは天然記念物に指定されているポッサム。また、ヒマラヤでは天然記念物として大事に扱われているターをはじめとする世界記録を塗り替える質の高いトロフィーが数多く生息しているのです。
主要の国際空港から2、3時間も車を走らせれば、そこはもうハンティングエリアです。アメリカ、カナダ、ロシア、そしてアフリカのように目的地に着くまで2、3日もかかるようなことはありません。この国では、狩猟可能な場所は、NZ Policeなどが決めています。ビッグゲームと呼ばれる四足動物の場合、私有地ならば農場のオーナーの許可を得ることでほとんど1年を通してハンティングを行なうことができます。パブリックエリアの場合、地方によって細かく決められており、New Zealand Mountain Safetyなどでそれらの情報が得られます。また鳥類の場合、ハンティングライセンスが必要で、ライセンスはガンショップなどで購入することが出来ます。ハンティングの対象となる鳥類はFish & Game New Zealand が発行するGame Bird Hunting Guideなどに記載されていて、それらには1日の制限や狩猟期間などの情報も記載されています。
この国でハンティングガイドを雇いビッグゲーム・ハンティングを行う場合、その狩猟場所にかかわらず、獲得したトロフィーに対しトロフィー費用を支払わなければなりません。その費用は獲得したトロフィーの種類及び大きさや質によっても異なり、ハンティング会社によっても大きく異なります。また、認められたパブリックエリア内で個人的にハンティングを行なう場合、トロフィー費用を支払う必要はありませんが、慣れない土地で獲物に出会える機会は少なく、遭難の危険もあるためお勧めできません。
この国ではピストルによる狩猟が禁止されている以外、ライフルやボーガンなどを使用するビッグゲーム・ハンティングが1年を通していつでも楽しむことが出来ます。また、ほとんどの四足動物に対し数の制限やシーズンの規制などもありません。
さらにこの国のユニークなところは、銃のライセンスを持っていない人でも、ライセンス保持者が同行することで自由にハンティングを楽しむことが出来ることです。ライフルはもちろんのこと、オートマティックのショットガンを撃つことも可能です。このことが、この国が世界のハンターから人気を得ている理由のひとつかもしれません。
はじめてのハンティング
私が最初にハンティングを行なったのは、イノシシハンティングです。それは、当初、イノシシハンティングに関する問い合わせが多かったからです。あるお客様から「NZでは犬でイノシシを追い、犬が噛み止めしたイノシシをナイフで心臓を一突きすると聞いたのですが、実際にそんなハンティングが行なわれているのですか?」という質問をもらったのです。そのようはハンティング方法があることはすでに知っていましたが、そのお客様からさらに「ナイフで刺すとき、どのように刺すのですか? 心臓を刺すということは豚をひっくり返さないといけないと思うのですが、自分でひっくり返して刺すのですか?」などと具体的な質問を受け、私はそれに答えることが出来なかったのです。そこでハンティングガイドにお願いし、イノシシハンティングに同行することになったのです。
当日朝5時に出発し、途中ハンティングガイドと合流し、到着するとそこはいくつもの山が連なる、広大な牧場でした。牧場内をしばらく車で走り、車を山の中腹に止め、ハンティングガイドが連れてきた犬を2匹山へと放しました。しばらく犬とともにのんびりと山を歩いていたのですが、突然犬が走り出し、私たちの視界から消えてしまいました。すると突然犬の吠え声とイノシシの悲鳴が聞こえてきたのです。その声を聞くやいなやガイドが走り出しました。ガイドは60を過ぎた、日本では定年を迎える年齢。私もあわてて後に続きましたが、いくら私が一所懸命走っても、ガイドに追い付くことが出来ません。追いつけないどころか、差は広まるばかり。足場が悪い上に山を上ったり下ったり、足が思うように前に進んでくれませんでした。ガイドが時々立ち止まり「なにのんびりしているんだ、早く走れ」と声をかけてくるのですが、息切れしてしまった私は返事すらすることが出来ませんでした。やっとの思いで犬とイノシシの格闘現場に到着し、いよいよナイフでイノシシを仕留めることに。ですが、教えてもらったようにトライしたものの、結局うまくいかず最後はガイドが仕留めました。
ガイドは私に「一刺しで確実に息を止めなければならない。動物を苦しめて殺すのはとても悪いことだ。私はハンティングをビジネスにしているが、動物に敬意を払うためにも、可能な限り1発で仕留めるようにしている」と話してくれました。
それまで私は「ハンティング=動物を殺す」などと単純に考えていましたが、ハンティングにも他のスポーツ同様様々なルールがあり、皆そのルールを守ってハンティングを楽しんでいることを改めて知ることになったのです。
ハンティングの歴史
NZの狩猟動物のほとんどは、狩猟用あるいは食料として持ち込まれたものです。捕食動物がいないことや人口が少ないこともあり、それらの動物は劇的に増え続け、政府は増えすぎた動物の駆除に乗り出したのです。
しかし、その後、鹿などは価値がある動物だということがわかり、駆除から捕獲への対象に変わりました。駆除した、たった数百ドルの価値しかなかった死んだ鹿が、生きた状態で捕獲すれば、数千ドルで取引されるようになったのです。数年後には100万頭以上の鹿が国内のファームで飼育されるようになっていきました。
日本でも最近問題になっていますが、このような外来種はもともと生息する動植物に対し良い影響を与えることはまれで、増えすぎることはこの国の自然を守る上で、そして人間が生活していく上で邪魔な存在となってしまいます。人間の都合で連れてきた動物が、増えすぎたから殺すというのはあまりにも人間の身勝手な行動としか思えませんが、連れて来た以上それを管理するのもまた人間の責任だと思います。
ハンティングをスポーツとして楽しむ人の多くは、自然を大切にする人が多いのも確かです。なぜなら、自然が破壊されると動物の数も減り、狩猟の対象動物がいなくなってしまうからです。ハンターの多くはいつまでも豊かな自然が残されることを望んでおり、その自然の恵みがあることでハンティングを楽しむことが出来ることを彼らは知っています。
海外で行なわれるほとんどのスポーツハンティングは、その狩猟の対象となる動物の大きさや性別、そして数などが細かくきめられており、その規則の中で行なわれています。時々規則破りのハンターが問題になり、ハンター=残酷、動物虐待、密猟者、などという目で見られてしまいますが、それはごく一部の人間の行為であり、その他大勢のハンターは規則を守り、スポーツとして楽しんでいるのです。
世の中には、直接動物を殺さないまでも、動物を危機に陥れているスポーツや娯楽施設はたくさんあります。スキー、スノーボードをはじめ、ゴルフなどは見た目も爽やかで人気の高いスポーツですが、それらの施設を作るために数多くの自然が破壊されています。また遊園地や大型ショッピングセンターなども森や林を切り開き、数多くの自然を破壊し造られています。このように目に見えないところで、ハンターが殺す動物の数以上の動物が、これらの開発で生息地を追われ、そして数を減らしています。またペットブームの日本ではペットが子供を産んだから、あるいは大きくなって手に余るからという理由でいとも簡単に捨てたり保健所に連れて行かれたりします。それらのほとんどのペットは毒殺される運命にありますが、その数は年間数万頭にもなります。
自ら動物を殺害するのが残酷なのか、それとも娯楽施設建設による影響で多くの動物が行き場を失い絶滅していくことが残酷なのか、これは人によって判断が異なることで、私には判断することが出来ません。
ただひとつ言える事は、実際にハンティングを行なうと、今まで以上に自然界の動物に対し関心を持ち始め、動物を大事に扱うようになります。また、ペットを物としてではなく人間同様命あるものとしてみるようになり、食べ物なども大事に扱うようになるのです。
スポーツとしてのハンティング
2003年9月に独立してハンティングガイドの紹介、通訳、同行などを行う現在の会社を運営しています。ハンティングは、3月から9月までの約半年間、タウランガ周辺、カイコウラ、クライストチャーチ周辺などでハンティングの案内をしています。キウィのハンティングガイドは、それぞれが自分のハンティングスタイルを持っており、自分が持つハンティングテクニックをフルに活用し、ハンターが満足する結果を得られることに力を注いでいます。ターを例に挙げると、あるハンティングガイドはターが生息する山へ徒歩で登り、キャンプをしながらトロフィーを捜し歩きます。ターは険しい山に生息しており、探して歩くだけでも大変な作業ですが、できるだけ自然な方法でハンティングさせたいと考えるのがこのガイドの考えです。一方であるガイドは、ヘリを使ってターを探します。少々金額は張りますが、足腰の弱いハンターなどはヘリを利用します。また短時間で多くのターを見ることが出来るので、より立派なトロフィーに出会う可能性があります。私はこの国のガイドと実際にハンティングを行いながら、彼らの持つスタイルを理解してお客様にあったガイドを紹介しています。また、そのネットワークを広げ、情報収集することにも日頃から心がけています。
私はハンティングをもっと一般的なスポーツとして、日本の皆さんに広げたいと考えています。残酷そして危険というイメージが付きまとうハンティングも、規則を守り銃を丁寧に扱えば決して危険ではなく、そして残酷でもないということを理解してもらえると思っています。負のイメージを正に変えるのはとても難しいことだと思いますが、残された自然を守っていく上でも、そして動物を大切に扱うという心を持ってもらうためにも、機会があれば若い人にハンティングをやってもらいらいと考えています。
そのためにも、もっとハンティングについて勉強し、さらに経験を積まなければならないと思っています。また、ハンティング以外にも、この国の自然を生かしたアクティビティをこれからも発見、開発していきたいと思っています。
コメント
結城将輝様、お久しぶりでございます,米子市の関ともうします。
ニュージーランドでお元気でご活躍のご様子ご苦労様です。
ところでひとつ伺いたいことがあるのですが、実は将光君がお宅当てにパイク(CB750F)を送ったというのですが、まだ元気で走っているでしょうか。メールをいただければ幸いに存じます。
投稿者: 関 貴之 | 2006年04月07日 18:38