今年もラグビーのスーパー12が2月末に始まり、例年のように盛り上がりを見せている。今年は特に新人選手の登場、他チームに移籍する選手、海外からニュージーランドに戻って来る選手に注目が集まり、また、海外に移籍してしまった選手の話題も多く、各チームがどんな成果を収めるかがラグビーファンの話題をさらっている。そんな各チームの毎週にわたる激しい攻防戦の主役となる選手たちの裏には、選手たちをあらゆる面から支えるマネージャーやエージェントが大きな役割を果たしている事を忘れる事は出来ない。
長い間アマチュアリズムを守っていたラグビーは1996年にプロとなり、選手には突然、大金が舞い込むようになった。それに伴い、選手の契約、税金対策、資金運用、海外への派遣などのアドバイスをする人たちが必要とされて来た。しかしながら、プロスポーツにおける契約の歴史がほとんどなかったニュージーランドでは誰もが「私はエージェント」と言うだけで、選手の契約や金銭面のアドバイスを行う事が出来た。その結果、いろいろなトラブルが発生した事も事実。
こんな不備だったニュージーランドのスポーツエージェントの世界を整備し、プロのエージェントとして最も知られているのがロウ・トンプソンだ。日本に行くラグビー選手のほとんどは彼が手掛けていると言っても過言ではない。自らの今後のビジネスを大きく左右するのは、日本マーケットだと断言する。
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1969年クライストチャーチ生まれ。リンカーン大学商学部でマーケティングを専攻。自らのラグビーは大学クラブで活躍し、セミプロとしてスペインのクラブで一年間プレーした事もある。クライアントにはクリケットや陸上の選手もほんの少しいるが、ほとんどがラグビー選手。大きな契約を決めるスポーツエージェントにしては世界的に見ても若すぎる事が目下の悩み。
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プレーヤー・マネージメントとは?
法律で縛ったり、強制したりはしないポリシー
私の仕事は広い意味でプレーヤー・マネージメントと呼ばれる、プロスポーツ選手の報酬の契約、税金対策や資金運用のアドバイス、広告やイベントなどスポンサーがらみの契約と管理を行うビジネスです。ニュージーランドではラグビーが1996年にプロになって、選手はラグビーをプレーする事で大金が入る事になり、それに伴う法律的な契約が必要になりました。それに伴い、選手は税金や大金の有効運用などお金絡みの知識と経験も必要になりました。当時は「私はエージェントです」と宣言し、選手と個人的な契約や約束で、エージェントとしてビジネスを行う事が出来ました。
しかし、トラブルが多く発生したのです。中には定額の長期契約を求めるエージェントも多く、選手は必要以上のお金をエージェントに支払わなければなりませんでした。そんなトラブルを見てきましたので、GSMは選手から金を受け取ったり、契約で縛ったりはしません。必要でないもの、他でなら安くなったり、タダになったりするようなものにお金を払う必要はないからです。それは、ニュージーランドのプロスポーツのマーケットは世界的に見ても非常に小さく、選手はエージェントと呼ばれる人たちにお金を払うほど、収入があるわけではないからです。例えば、平均的なスーパー12の選手は65、000ニュージーランドドルの契約です。エージェントは基本的に10%の契約料を請求します。10%も支払うのだったら、弁護士にお願いした方が安上がりなのです。また、会計士やファイナンシャル・プランナーなども必要ならば紹介します。強制は一切しない事がGSMの方針です。そんな落とし穴の多かったプレーヤー・マネージメント・システムを整備し、確立中であるのが今のニュージーランドのプロラグビー界と言ってもいいでしょう。
私は「エージェント」という言葉を使いたくありません。仕事内容からして「スポーツ・マネージャー」という言葉が私の仕事に最適だと考えています。
選手の海外への派遣
収入の65%は海外からのもの
クライストチャーチのリンカーン大学クラブでラグビーをし、99年から2000年にかけてスペインで一年間プレーしました。もともと私の友人には優秀な選手が多く、ちょうど96年にラグビーがプロとなった事もあり、彼らは海外でプレーして収入を得る事を考えるようになりました。そんな友人たちを見ていて、これはビジネスになるのではないかと思ったのです。昔からの友人が1997年にロンドンで選手のマネージメントを行う会社としてGSMを設立し、私もスペインの前後からGSMで働く事になりました。そして、私はニュージーランドに戻り、2000年にGSMニュージーランドを設立しました。
スポーツエージェントは弁護士が自ら経営しているケースもありますが、GSMには弁護士はいません。会計士も、ファイナンシャル・プランナーもいません。そういった専門家は国内のトップレベルの専門集団と業務契約をしていますので、社内で抱える必要はないのです。契約をしている3人の弁護士はニュージーランド国内のプロラグビーの契約ほとんどを扱うプロ中のプロですので、我々がわざわざ手を出す必要はありません。
GSMの主要業務は契約をした選手のニュージーランド国内でのスポンサーシップ活動と海外派遣の契約に伴うマネージメントです。最近のスポンサーシップではオールブラックスのダニエル・カーターがトランクス一枚で広告に出ていたのを覚えていますか?あれはベンドンと言う下着ブランドとGSMのスポンサーシップ部門で手掛けたものです。しかし、それだけでは会社を経営するのに十分ではないのです。
もう一つの仕事は選手を海外のクラブに派遣する契約をまとめる事です。この収入がGSMの65%を占めています。プロ化に伴い、選手は年間の試合数が増え、寿命が短くなって来ています。昔は海外でプレーする事を考える場合、ニュージーランドでお払い箱になった時で、年齢も29歳以上だったのですが、最近はこれからまだ上のレベルが狙える、将来有望な25歳前後と低くなって来ています。そんな若い年齢で海外でのプレーを考える事は以前にはありませんでした。ですから、出来るだけニュージーランドで頑張らせて、後悔しないようにとアドバイスをしています。
GSMの設立当時は選手に電話して、顧客になってもらう営業をしました。最近は選手間の口コミで130人にまで増えています。選手自ら私のところにコンタクトして来るケースが増えました。エージェント業務は競争が激しいのが常です。今では19歳前後の若い有望選手を顧客にしようと、多くのエージェントが群がって来ています。GSMにコンタクトを取って来た若い選手には「エージェントはいらない。必要なのはアドバイスだ」と言っています。選手から金は取らない、強制はしないというGSMの方針が選手に受けているのではないかと思います。
日本は第2のマーケット
偏見を持たれていた日本も現在では人気のマーケット
ニュージーランドから最も多くの選手を受け入れているのが英国です。次いで日本です。今年英国は約30人、日本は17人の予定です。以前はライフスタイルを重視する場合はフランスへ、金額では英国と相場が決まっていました。日本は文化も違い、法律も全く別の解釈で、トラブルが絶えないため、強い偏見もありました。しかし、現在、英国はサラリーキャップ制の導入で以前のように高い契約金を手にする事が難しくなり、日本に流れる事も珍しくありません。今では日本は最もいい契約内容を結べる国となりました。日本で子供を産み、育て、生活を楽しんでいるニュージーランド選手も多くなっています。それはニュージーランド選手を受け入れる日本の企業のクラブがどのように外国人選手を受け入れて、言葉や文化の違いをどのようにその家族に説明するかにかかっています。しっかりと外国人選手を受け入れられるクラブになるまでには3~4年はかかります。そういったガイダンスやアドバイスもGSMの仕事の一部です。日本にはまだオフィスがありませんが、専任スタッフを採用し、日本に頻繁に派遣して、全てオークランドオフィスでコントロールしています。これらを行うにはクラブといい関係を持っていなければいけません。クラブに信頼してもらうためには世界中のクラブと選手の現状をどれだけ知っているか、マーケットの知識とコネクションが物を言います。
日本へ選手を派遣する時はまず、各クラブから必要なポジション、年齢、支払い可能金額、レベルなどを挙げてもらいます。そして、それらに合わせて、こちらのリストから選手をピックアップします。その際大切なのは同じレベル、キャリアの選手を競合して紹介しない事です。それはクラブ側の選手の選択決定が難しくなるからです。もちろん紹介した選手の健康状態、ビザ、家族構成などもチェックします。それを怠ると、クラブとの信頼関係が崩れる事になります。
日本ではビックネームが求められる傾向にあります。元オールブラックスというのはどのクラブも欲しがります。ただ、その選手があと何シーズンプレーできるのか、日本で本気でプレーする気があるのかなどを判断しなければいけません。そんなビックネームが求められる中、あるクラブは昨年、ニュージーランドで有名でなくても、将来有望な選手を受け入れ、日本で育てたいと依頼をしてきました。そのクラブは以前にもニュージーランドから若い有望な選手を自ら発掘し、その選手は日本代表にまで登り詰めた例がありました。
まだ確立されていない資格制度
歴史の浅いニュージーランドのプロスポーツビジネス
プロスポーツの契約ビジネスはヨーロッパでは30年の歴史がありますが、ニュージーランドではまだ新しく、何もかも勉強中というのが実情です。ヨーロッパのラグビーの世界では数多くの地元のクラブが各選手との基本契約を結ぶほど件数が多いので、契約にかかる総合金額も大きくなります。ニュージーランドでは選手の契約はニュージーランド・ラグビー協会一か所に牛耳られています。それほど規模的にも金額的にもまだまだ未成熟なのです。ですから、ラグビー・エージェントは登録制でもなく、資格制度もない、未成熟世界なのです。サッカーのFIFAは厳しい資格制度があり、サッカービジネスのマーケットの大きい日本でも10人に満たない数のエージェントしか存在しないと聞いています。ちなみに、GSMロンドンでは2人のFIFAエージェントがいます。ラグビーのエージェントも将来的には絶対に登録制か、資格制度を確立しないといけないと思います。それが、成熟したプロスポーツマネージメントの世界だと思います。
ニュージーランドにはGSMをはじめ、現在3つの大きなエージェントと10の中小エージェントがあります。目標としては3~4年のうちにより多くの選手から信頼され、実績でナンバーワンになる事です。
ロンドンに本社のあるGSMでは、オーストラリア、英国、フランス、日本と取り引きを行っています。GSM全体では400人の選手と契約をしており、南アフリカ、イタリアやフィージー、西サモアへもビジネスを展開したいと考えています。
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