Vol.134 ジョン・カーワン ラグビー"オークランド・ブルーズ"ヘッドコーチ |
JKという愛称で親しまれているサー・ジョン・カーワン。2011年のラグビーワールドカップでは日本代表チームを率いていたから、日本人にも馴染み深い。彼の新しいチャレンジは昨シーズンの低迷で落ち込んでいるBluesを、再び最強の人気チームに育てあげること。選手の選抜に一息つき、今シーズンの戦略プランに忙しい彼のオフィスを訪ねた。
単身赴任だった日本。
「私が初めて日本に行ったのは1987年で、第一回のラグビーワールドカップで優勝した直後のオールブラックスのツアーでした。その時はチームの一員として試合をするための短期滞在でしたから、よく覚えていません。でも、1997年から1999年までの3年間、私が現役選手として最後にプレーしたチームがNECグリーンロケッツでした。実を言うと行く前は、少し不安だったんです。全く異なる文化に溶け込めるだろうか、と。でも実際に日本のラグビーの世界に入ってみると、それはそれは楽しく、悔いのない経験でした。本当に素晴らしい選手生活の晩年を送れたと思っています。日本の選手はお互いをとても尊敬し合い助け合う。だから、そのときの仲間はかけがえのない生涯の友となりました。」
イタリアチームの監督を降任した頃、グリーンロケッツ時代にチームメートだった大田治氏と行きつけの居酒屋でラグビー談義。すっかり意気投合し、それが日本代表チームの監督を引き受ける決め手となった、というエピソードは広く知られる。当時はイタリアのベニスにイタリア人の夫人フィオレッラさんと3人の子供の家族で暮らしていた。
「日本のエグゼクティブの多くが、家族を残して遠隔地に単身赴任していますよね。私も、彼らと同じように、東京に単身赴任していました。そういう意味ではちょっとジャパニーズスタイルだったかな(笑)。日本での生活は楽しかったですよ。外苑前のマンションで、典型的なガイジン・ライフスタイルでした。毎日外食し、おいしいものを満喫しました。担々麺、ダイスキ!(笑)。1ヶ月のうち20日あまりを東京で過ごし、10日ほどベニスに帰る。そんな生活を長いこと続けました。良かったですよ。ドアからドアまで18時間の旅は好きでした。特に12時間ほどのフライトは、全く私ひとりの時間になるので、私はその時間をあれこれ考えたり読書に費やしたりして、自分自身をチューニングしていました。」
「現代社会の都市部の人たちって、あまりひとつのチームを忠実フォローする、という体質じゃないですよね。だから、残念ながら現在のBluesには何もない。ファンも、スポンサーもBluesに対するLoveを失っている。そのカラッポなハートにどうやってこれからLoveを取り戻していくか。それが今の私の焦点、大きな挑戦です。それからオークランドという都会に息を吹き込みたい。ちょうどマンチェスター・ユナイテッドがマンチェスターという街に活力を与えているように、Bluesもオークランドのインスピレーションになって欲しいです。だって、オークランドは世界中で最も美しい都市のひとつですからね。」 JKの指導スタイルは選手個々と密接なコミュニケーションをとり、チームとして編み上げて行くやり方。日本代表もBluesもそれは変わらないという。シーズン中の週末は1日中、スカイTVでありとあらゆるラグビーの試合を見る。実際にグラウンドに出向くことも多い。そうやって新生Bluesの選手選抜をほぼ終えたところ。日本の選手を迎えることも意中にある。 「これから、自分たちがどんなチームなのかをよく考えて、Bluesに合ったプレースタイルを作り上げていきます。私以前の日本代表チームの目標は、選手を大型化して海外の強豪チームのようになる、ということでした。私はそれは間違ったアプローチだと唱えました。日本人が、体が小さい、パワーが無い、などと否定的に考える特質を、逆にスピード、機敏さ、スマートさに転換し、それを最大に生かす、という日本チーム独特のスタイルを築き上げていきました。そうして、チームはサモア、トンガ、フィージーなどを相手にしたパシフィック・ネイションズ・カップで健闘し、世界で12位にランクされるまでに成長しました。今私がBluesでやろうとしていることはそういうこと。日本のファンには特に注目して欲しいところです。」
2003年からニュージーランド保健省のTVコマーシャルではメンタルヘルス認識促進を呼びかけ続け、2010年に出版された‘All Blacks Don’t Cry’ではJK自身がうつ病だった経験をつづった。その無償の活動が認められ、2012年6月4日に、ナイトの勲位、Sirの称号を授かった。
「Sirの称号を授かるなんて、びっくりだったんですよ。だってそれを受ける人って年寄りだ、ってイメージ。ちょっと気恥ずかしいです。でも名前の前にSirが付いたからといって、何かが変わったということはありません。ご褒美の金一封がもらえるわけでもなし(笑)。気を引き締めて、メンタルヘルスの活動にますます力を入れよう、と思ったぐらいです。今、新しい本を作成している最中。それは、ティーンエージャーの心の問題を正直に話し合う本、うつを抱えた若者、その親、そして私の3者コミュニケーションの本。若者が突然自殺するなどを未然に防ぐために、心の病気の早期認識と治療を促し、根本的な問題解決を目指しています。」
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