Vol.156 Deputy Headmaster, Hamilton Boys’ High School Rugby 1st XV Head Coach |
ニュージーランドには文武両道で大成している人が多い。スポーツとビジネス、スポーツと学業などで成功している人のことだ。スポーツの中には選手としての実績や栄光だけではなく、チームを勝利に導いた指導者としての手腕も加味して捉えるとその数はかなりのものになるはずだ。Hamilton Boys’ High Schoolの副校長Nigel Hotham氏もそういう一人に数えられるだろう。
教育者として、またラグビー部の監督としての経験と実績は多くの人から尊敬を集めていることで証明されている。教育者としての道を究めるか、ラグビー指導者としてさらに上を目指すか、現在は分岐点にいると打ち明けてくれた。
【Profile】
Nigel Hotham
Deputy Headmaster, Hamilton Boys’ High School
Rugby 1st XV Head Coach
1964年マタマタ生まれ、ハミルトン育ち。ワイカト大学教育学部卒業。ハミルトンの小中学校、オークランドのKelston Boys’ High Schoolを経て、Hamilton Boys’ High Schoolへ赴任すると同時にラグビー部1st XVのヘッドコーチに就任。以来、ニュージーランド国内高校選手権で優勝4回。日本でも注目される教育者兼ラグビー指導者。日本で食べたラーメンのうまさに衝撃を受けた。
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教育者として
ワイカト地方の小さな街マタマタで生まれ、ハミルトンで育ちました。ワイカト大学に入学し、教育学部を卒業しました。地元の小中学校で教鞭をとった後、1994年に体育と地理を担当する教員としてラグビーで有名なオークランドのKelston Boys’ High Schoolに赴任しました。その当時、後にオールブラックスの監督となったグラハム・ヘンリー卿が校長でした。彼は校長とオークランド代表チームの監督を兼任していました。今では校長職とラグビーの地区代表チームの監督は共にとても忙しい仕事ですので、両方を同時にこなすことは不可能ですが、当時はまだ良き古きニュージーランドの風習が残っていたのだと思います。その後ヘンリー卿は校長を辞し、プロのラグビー指導者となりました。私は2000年にスポーツ部門の総責任者となり、同時にラグビー部1st XVの監督となりました。
2003年にHamilton Boys’ High Schoolに校長補佐として赴任し、1st XVの監督になりました。私が監督になったときは1st XVとは言ってもハミルトンの白くてひ弱な男の子ばかりのラグビー部でした。ポリネシアンの多かったKelston Boys’ High Schoolとは比べ物にならないほどの貧弱なチームだったのです。
私が監督に就任してからはまず練習量を増やしました。それまでは火曜日と木曜日の放課後に練習し、土曜日に試合をするというニュージーランドの伝統的なスタイルだったのですが、火曜日と木曜日に朝練、放課後は火、水、木曜日と変えました。さらに私が副校長になった2006年あたりから月、火、木の朝練、月、火、水、木の放課後練習としました。この大きな変化に部員の親が疑問を唱えました。そこまで練習する必要があるのかと。朝と放課後と一日2回練習する日があるからです。しかし、単に練習量を増やすだけではなく、フィットネスや身体づくりを取り入れ、それを記録に取り、専門家からのアドバイスを受けたのです。ラグビーは最後の20分が勝負の分かれ目と言われます。その時間帯に走れ、タックルの出来る体力をつけることを部員や親に納得させました。
結果を出す
私が就任してから3年後に結果が出るようになり、周囲がだんだん理解を示すようになりました。北島中央部の伝統ある男子校8校で行われるラグビー大会Super 8で2006年から2011年以外は毎年優勝しました。その後はニュージーランド国内の高校チャンピオンを決める大会でも2008、2009、2013、2014年と優勝しました。ニュージーランド国内で優勝すると日本の福岡で毎年行われるラグビー強豪国の高校チャンピオンが集まるサニックス・ワールドラグビー・ユース交流大会に招待されます。今までに2010、2011、2014年と優勝し、文字通り高校の世界チャンピオンとなりました。
2013年のニュージーランド国内の高校チャンピオンを決める大会の決勝はHamilton Boys’ High Schoolのグラウンドで6,000人の大観衆を集めて行われました。まったく同じ時間帯にここから近いワイカトスタジアムでプロ選手による国内選手権の試合が行われていました。ワイカトスタジアムは2,000人の観衆だったそうです。オークランドの高校チャンピオンSaint Kentigern Collegeを破って大騒ぎになりました。
2014年は決勝でウェリントンのScots Collegeと引き分けました。両校優勝となったのです。サニックス・ワールドラグビー・ユース交流大会はラグビー協会の決定でScots Collegeが参加することになり、残念です。
最近のラグビー強豪校は校区外から選手をリクルートすることがよく行われています。しかしながら、Hamilton Boys’ High Schoolはそれをしません。する必要がないのです。プレーしたいと言う選手が次々と集まるようになってきたのです。また、Hamilton Boys’ High Schoolは古くからある男子校にも関わらず、校長は女性なのです。男子校の校長が女性? と多くの人が不思議がります。ですが、現在の校長Susan Hassall氏は創設以来初めての女性校長で、通常10年単位で校長の任期期間があるのですが、すでに15年も在職しています。これは女性ならではの男子への思いやりと、母親的愛情の賜物です。まるで母親が息子を包み込むようなやさしさをいたるところで感じることが出来るからなのです。
日本から学んだこと
サニックス・ワールドラグビー・ユース交流大会を含め、過去に数回日本に行った中で私が最も感銘を受けたのは「Kaizen」(改善)という考え方です。トップで居続けることを目指すチームは、ラグビーでも学校でも、いつも変化していなければいけません。変化し続けるとは言ってもポリシーは変わってはいけません。変わらぬポリシーのもとで、目標へのプロセスを変えるのです。ラグビーのチームで言えば、指導者はポリシーを変えず、新しい、効率的な練習方法を随時取り入れて行くということです。これがKaizenだと思います。
実はKaizenの考え方はニュージーランドでスポーツや教育分野で多くの指導的立場にいる人が取り入れています。ニュージーランドでは特に問題が起こらなければ、同じ状況を保とうとします。その状況を続けて行けばベストでいられると考えます。どうかしなければいけないと考えるのは、問題が起こってからなのです。そうなった時にはもう遅いのですが、、、。ベストであっても常によりよい方法を探し続けることがKaizenの考え方なのです。
逆にこれはまずいなと感じたのは「集中」です。日本のラグビー選手は練習が長過ぎます。なぜ長いかというと集中していないからなのです。これは私が指導した選手が日本のトップリーグのチームに所属して感じたことだと私に打ち明けてくれたことです。例えばジムでのトレーニングではニュージーランドの選手が1時間かけて行う練習を日本の選手は同じ内容を2時間かけて行います。ニュージーランドの選手に比べて集中度で50%マイナスなのです。
ある日本のチームが試合のあとに2時間の練習を行ったのを見た時にも集中できていないと思いました。試合で全力を出しているのに、さらに力を出せるはずがありません。選手が集中して練習しているはずがありません。日本のチームは監督やコーチが選手を軍隊の兵士のように扱います。監督やコーチが言うことがすべてなのです。しかし、私たちはチーム内のリーダーシップ・メンバーを集めてアドバイスします。最終決定は私が行いますが、結果を出すためにどうするか、何をするかのプロセスを考えさせます。
私の副校長としての担当分野は「リーダーシップとやる気」です。指導的立場の学生を育て、すべての生徒にモチベーションを持たせ、スポーツと学業で素晴らしい成果を上げられれば、指導者、教育者として幸せなことはありません。
この記事を読んで、Hamilton Boys’ High Schoolに興味のある方、NZへラグビー留学してみたい方は、下記のお問い合わせよりイーキューブのキャリアアップ留学センター「イースクエア」までご連絡ください。

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