ニュージーランドに質の高い料理雑誌があると言われ続けて久しい。世界の料理メディアコンテストで毎年上位に選ばれるのが雑誌「キュイジーヌ」だ。創刊号が発行された1987年には、保守的だったニュージーランド人に突飛で異様なレシピが掲載されていると言われ、ワインとなるぶどうの品種の発音から説明しなければならなかった雑誌は、人々をずっと啓蒙し続け、現在その価値が認められるようになった。今ではニュージーランドで発行される雑誌の中で最も好調と言われ、次々と読者を増やしている。
料理雑誌とは言ってもレシピばかりではなく、ワインから旅行やレストランなどライフスタイル情報までカバーしている。その切り口は「一歩先を行く」である。日本人にとっては最新のニュージーランドの飲食・生活文化の情報源となるはずだ。もう時代遅れの下手なガイドブックにしがみつく必要はない!
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クライストチャーチ生まれ。カンタベリー大学で英米文学を専攻のかたわら、大学新聞に寄稿していたこともある。その後、新聞社、デザイン雑誌、子供雑誌の編集部員を経て、1987年に「キュイジーヌ」を創刊。ニュージーランドの食材は新鮮で、トマトはトマトの味がするし、鯛は2日前に獲れたのを食べられるほど豊かなことを実感して欲しいと言う。遅くとも午後5時には仕事を終えて家族のために大好きな料理で腕をふるう。
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ワイン年鑑が「キュイジーヌ」のはじまり
雑誌「キュイジーヌ」も最初から今の勢いがあったわけではない。新しい雑誌が出版されては消え、編集長が次々と首を切られる厳しい出版業界にありながら、生き残るだけではなく、成功を納めている。
私はカンタベリー大学で大学新聞の編集をするほどジャーナリズムに興味を持っていたんです。その後クライストチャーチで新聞社に入りましたが、本当にやりたいことはジャーナリストになることではないと気づきました。17歳の時に交換留学生として訪れたニューヨークで食文化やライフスタイルに刺激を受けたこともあり、デザイン雑誌の編集部員に転職しました。その後、子供雑誌の出版社に入社しました。1982年にどう言うわけかその会社でワイン年鑑を出すことになったのです。1986年になるとニュージーランドのワイン業界は最悪の状態になりました。政府はワイン生産者にぶどうの木を引き抜き、ぶどう畑を潰すことに補助金を出して、ワイン生産を止めることを奨励していたんです。しかしながら、経済は上向きで人々が外食を盛んにするようになり、それならワイン年鑑に料理情報を載せようじゃないかと言うことで「キュイジーヌ」という誌名にして創刊号を1987年1月に発行しました。隔月刊で総ページ数112、発行部数4,000部でした。1年後に私が買い取ることになり、借金をしましたので、そこから苦労がはじまりました。
創刊当初は購読者もいませんでした。ダイレクトメールを発送したり、展示会に出展したりしてシェフやレストラン経営者、食材会社などから徐々に購読者を増やしていきました。もちろん広告もありませんでした。広告代理店も新しい出版物は不安だと言って、見向きもしてくれませんでした。
転機となったマーケティング・キャンペーン
「キュイジーヌ」がブレイクしたのは看板を使った広告キャンペーンが大成功したから。「We Do Amazing Things With~」というコピーの強烈な看板広告を見たことある人も多いに違いない。
私が「キュイジーヌ」を引き取ってからしばらくは広告セールスが大変でした。ちょうど1996年4月に自分達が5年後にどうありたいかという目標を設定したのです。マーケティングプラン作り、誌面の内容とデザインプランを練っている時に看板広告の案が挙がって来ました。
看板では毎号の特集を紹介するのですが、「米」の特集の時には「We Do Amazing Things With Rice」のコピーで下半身が海老になっている人魚がにぎり寿司の米の上にうつ伏せで横たわり、ちょっとお尻が見えているCGでした。また「桃」の特集の時には「We Do Amazing Things With Peach」のコピーで、いくつものサングラスをかけた桃がGストリングスをはいてビーチタオルの上に座っているイラストを使いました。
この広告キャンペーンは編集部内でも賛否両論でした。「キュイジーヌ」の品位を落とすことになりはしないかと。しかし、私はこのキャンペーンに賭けたのです。それまでも広告収入は十分ではありませんでした。何もしないで、今までどおりおとなしく、広告代理店の言いなりで、予算の振り分けの時にたまたま広告を入れてもらうような弱いメディアでいるか、それとも一気に消費者から認知を得て、ぜひ広告を入れたいというメディアになるかの分かれ目となったのです。さらに表紙も看板と関連するイメージで特別に広告代理店に制作をお願いすることにしたのです。 このキャンペーンの投資は年間25万ドルかかると言われました。このキャンペーンを始めたらもう後には引けません。やるからには続けなければ効果がないからです。広告も同じですよね。おかげで3ヶ月間眠れない日々が続きました。
結局、キャンペーンの結果は成功でした。目標としていた6ヶ月後の購読者数が80%も増えて約40,000部になりました。2002年現在、世界中の読者も入れて約84,000部が読まれています。このキャンペーンは今でも続いています。
成功のポイントは「一歩先を行く」
広告キャンペーンが成功したのも、それに伴う内容があったことと積極的な購読者獲得作戦があったから。
キャンペーンの最中に3つのことに気をつけました。一つは既に購読してくれている読者にいつも「キュイジーヌ」を楽しみにしていてもらうこと。インパクトのある看板を作って刺激をし、忘れられないようにしなければいけませんでした。二つ目は新規の購読者の開拓でした。「キュイジーヌ」に興味を持ってくれている潜在的な読者がいたことはわかっていたのです。ですから、極端には内容の変更をせず、レイアウトや写真の使い方を変更しました。また、食やワインの入門者の中には「Sauvignon Blanc」の発音さえ知らない人もいましたので、そんな初心者を切り捨てずに、入門情報をも盛り込みました。三つ目は広告代理店に対して「キュイジーヌ」はもはや時代遅れの料理&ワイン雑誌ではないことをわかってもらうことでした。増加する部数や一歩先を行く新鮮な内容と相まって「キュイジーヌ」の読者のほとんどが十分な購買力のある層であり、影響力のある雑誌だということが認知されて来たのです。その結果、車、化粧品、不動産など料理やワイン以外の広告も入るようになりました。
ニュージーランド人の生活を豊かにする啓蒙を行う
「キュイジーヌ」の内容の変化とニュージーランド人のライフスタイルの豊かさはお互いに相関関係にある。
現在の「キュイジーヌ」は広告が40%、記事が60%の比率になっています。雑誌としてしっかりとした取材記事がなく、広告ばかりの雑誌は読者が離れていくと思います。そうならないように「キュイジーヌ」では読者の一歩先を行く情報を常に発信し続けるようにしているのです。読者の50%はオークランドに住んでいます。また、ワインに力を入れていましたので男性読者は全体の30%だけを占めていたのですが、よりワインを楽しむために自ら料理をするようになって、35%に増加しています。これは自然な流れなのです。ニュージーランドの食文化が大きく変ったことが大きいでしょう。世界のあらゆる料理が楽しめるようになり、カフェ文化も定着して来ました。新しい味や素材に男性が目覚めたのです。ですから、今まで以上にレシピを含む料理のページを充実させました。女性は逆にワインに目覚めたのです。
売れる特集はクリスマス、イタリアン、シーフードです。夏のバーベキュー特集も人気です。
ワイン業界でも大きな影響力を持つ
「キュイジーヌ」は年間6冊の発行で広告も含めて600万ドルの売り上げをもたらす。その他、ワイン年鑑、レストランガイドも発行する。
「キュイジーヌ」は年間6冊の発行で広告も含めて600万ドルの売り上げをもたらす。その他、ワイン年鑑、レストランガイドも発行する。
ワイン年鑑は「キュイジーヌ」のワインページの編集も担当しているボブ・キャンぺルに執筆をお願いしています。彼はマスター・オブ・ワインと呼ばれ、ニュージーランドの有能なワイン評論家の1人です。1990年から毎年発行していましたが、2002年版は2003年版の大改訂のため休刊しました。再びボブに執筆をお願いし、今まで通り多くの写真も掲載し、250-260ページの豪華版になりますが、内容をもっとフード&ワイン・ツーリズム寄りにしたいと思っています。世界のトレンドでカリフォルニアのナパでも南オーストアリアのバロッサでもワイナリーを訪れて、飲んで、食べて、遊んで、宿泊するという観光要素が強くなって来ています。ニュージーランドのワイナリーもそんな視点で紹介してみたいと思っています。ワイナリーはもはやただワインを作るだけの場所ではなくなって来ています。9月に発行予定です。
そして、1999年にはレストランガイドも発行しました。執筆は「キュイジーヌ」で料理ライターとしてレストラン紹介の記事も書く、ロウリーン・ジェイコブスです。「キュイジーヌ」本誌やワイン年鑑ほどの売れ行きはないですが140ページのハンディサイズで重宝されています。
また、スーパーマーケットやワインショップなどで「キュイジーヌ」のステッカーがボトルに貼ってあるのを見たことはありませんか?それらは「キュイジーヌ」本誌で4つ星か5つ星に選ばれたワインなのです。このステッカーはそれに選ばれたワインの生産者にのみ1000枚25ドルで販売されていて、すでにワイン選びの一つの指標になっています。実際にこのステッカーが貼ってあるワインは貼ってないものよりも良く売れることが証明されています。
ニュージーランドばかりではなく世界でも評価される
世界中のフードライターによって投票される、世界の料理メディア大賞で1997年に2位、1999年に3位に選ばれた。
常時13人のスタッフがオフィスにいます。アートディレクター以外は全て女性です。そして、カメラマン、ライターなど約25人の契約スタッフが協力してくれています。これだけの情報量の雑誌はとても1人でできるものではありません。多くの優秀な外部の人材が季節に合ったレシピや街のレストラン情報やワインの評判を教えてくれるのです。
「キュイジーヌ」は街の高層アパートメントに住む若いビジネスマンや酪農地帯に住む40代50代の人達でも利用するようになりました。記事の片寄りをなくし、食べる、飲む、もてなす、暮らす、旅するという生活のいろいろな場面で役立つ情報を一歩先で掴んでいたことがニュージーランドでの成功となり、世界での評価を高めたのではないかと思います。
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