Vol.86 時代を飾るキウイ ニュージーランドで一番のビール注ぎ手 |
毎年、ベルギーのルーベンで行われているビールの入れ方を競う世界大会STELLA ARTOIS DRAUGHT MASTERS。その出場権もかけた08年のニュージーランドの国内大会で見事優勝を果たしたのは20 歳のパブ・アルバイト学生Kirsty McLeanであった。彼女は学生最後の年である今もアルバイト先で「ニュージーランドで一番美味しい」ビールを注いでいる。
パブでのアルバイト
私がマウント・イーデンにあるパブ『De Post』で働き始めたのは大学に入って最初の年のことでした。いわゆる学生のアルバイトで、今も続いているのです。ですから本業はオークランド大学の学生ということになります。 Draught Masters ニュージーランド大会 大会では、実際のパブでの仕事と同じ、注文を受けてタップからビールを注いで、お客さんのところに運ぶという一連の動作だけでなく、ビールに関しての知識も審査されます。このビールはどんな味なのか?どんな歴史を持っているのか?など、これは暗記力の部分になるのかもしれません。つまり、ビールに関しての総合力を競う内容となっているのです。 ただ、もともと、お客さんにビールをいかに美味しく飲んでもらうかということで、始まった大会ですので、ビールの味も大切な審査要素になります。とは言うものの、審査員は各競技者のビールを一回一回飲むわけにはいきません。もしそんなことをしたら、全部で30杯近くのビールを飲むことになってしまいます。ですから、味の判断はビールを注ぐときの動作や泡の量や状態で、それらが完璧にできていればビールは美味しいと判断されます。
この大会はSTELLA ARTOISと名前がついているようにベルギービールを使った大会です。当日も3つのベルギービールを使って行われます。最初に私たちはSTELLA ARTOIS を2杯とHoegaarden、Leffoを各一杯ずつ注文されます。これは参加者全員同じで、その後すぐにバーカウンターのタップのところに戻ります。どこのバーにもブラシつきのシンクと、水だけのシンクの二つがあり、そこでグラスを洗います。すでに洗ってあるグラスを使用するのですが、これはお客さんにビールを出す直前にもう一度、キレイにするということで、行われています。 それに対してHoegaardenは少し幅広なグラスですから垂直にします。こうすることでビールが強めに底にあたり泡が多くできます。上から4分ぐらいめで、「少し多いかな?」という量の泡にするのが正しい入れ方になります。ただしこれは世界基準で、大会はもちろんこれに沿って審査されますが、ニュージーランドで実際にお客さんに出すときは泡を少なめにします。そうでないと「ビールの量が少ない」と言われてしまうことが多々あるからです。この二つのビール共に、注ぎ終わりにはビールが盛り上がり、グラスからほんの少しだけあふれるくらいにして、グラスの高さに合わせて泡を切る。そのままもう一度、水の溜まったシンクで周りについたビールをすすいで、出来上がりになるのです。 競技の基本的な動作としてはこんな感じになるのですが、これに加えて時々お客さん役の審査員からビールについての質問を投げられますから、それにも正しく答えていきます。この競技は、間違った動作をすると減点、動きが美しくないと減点、笑顔ができてないと減点、自信がなさそうだと減点、など基本的に減点法になります。満点を取るためには一つのミスも許されませんので、その緊張感は大きく、このプレッシャーとの戦いと言ってもいいくらいだと思っていました。ですから私もとにかく笑顔を絶やさないようにして、作業には最大限に集中して競技に挑んだのです。その結果、ニュージーランドでチャンピオンになることができ、同時に世界大会への参加権を獲得したのです。 世界大会 世界大会はベルギーの学生の街ルーベンで行われました。世界大会出場ですから、ニュージーランド本社であるライオン・ネイザン社の専属トレーナーについて週3回の特訓もあり、今まで以上に私の周りも応援してくれるようになりました。 ベルギーに行くのは初めてでしたので、私も付き添いの母も大はしゃぎで、ヨーロッパを楽しんでいました。特にいつも『De Post』でも出しているマヨネーズとケチャップで食べるベルギースタイルのポテトフライ、ベルジン・ポンフリッツは本場と言うこともあり、その屋台もあって、私もついつい何度も買ってしまいました。
さて、本題の世界大会ですが、参加者は30名で、本国のベルギー、イギリス、ウクライナ、中国など世界各国から集まっていました。特訓も受けてきましたのでトップになる自信はありました。 結果は13 秒オーバー、26ポイントの減点で、6位になってしまいました。それさえなければ優勝でした。これはそれまでの私の人生の中で最も悔しいことでした。そんな気持ちで帰国したのですが、ニュージーランドで応援してくれた周りの人たちからは「世界で6位なんてすごいじゃないの」とかなり祝福してもらいました。おかげで最近は私も、「あー、そうだなー」と思い直し、再び『De Post』でタップに向かっています。 今後の夢 同じ人が世界大会に2回出場することはできないポリシーがありますので、残念ながら私がこの国から出場するリベンジのチャンスはありません。オーストラリアから出場するという方法もあり、少しは考えているのですが、世界大会はとても貴重な経験でしたし、今はその結果をしっかりと受け止めるようにしています。なにより現在は学生ですし、最後の学年ですから、いよいよ将来の自分のことについて考える時期にきていると思っています。 この大会を通して知り合ったニュージーランド・ステラのマーケティングマネージャーの人とも知り合うことができ、現在の目標は彼のようなマーケティングの仕事に就くことでもあるのです。 まだ先のことは100%クリアーになっている状態ではないのですが、今はDRAUGHT MASTERS を通して得た技術と姿勢を『De Post』で十分に発揮したいと思っています。 この記事を読んで、バーでの仕事やホスピタリティ業種に興味のある方、留学をお考えの方はイーキューブの情報センター「イースクエア」までお問い合わせ下さい。 |